少女少年3 YUZUKI
子供が大人になるために学ぶべきことが露骨には描かなくなり
「子供時代を楽しみなさい」といったテーマになっていることですね。
☆子供が子供らしくあるために
田舎育ちの、ちょっと女顔のゆずきは兄ふたりのいたずらに嫌気が差していて、
「子供でも家から飛び出していける方法」として
「芸能人になる」という野望を抱いた短絡的な思考回路を持つ少年。
兄たちのイタズラというのは寝ている間に女装させられているなど
実に稚拙なものなのですが、確かにいつもこんな環境だと辛い。
女装が似合ってしまっているのが更に辛い。
だから素人歓迎のオーディションに合格して
家から一日も早く出てしまおうと考えています。
自立願望が強いように見せかけて、実は何も考えていないのがポイントです。
なので最後の詰めも甘く、折角一生懸命書いた応募用紙も
兄たちに性別欄を書き換えられ、女の子としてエントリーしてしまいます。
審査に通った後、性別を明かすかやめるか選択できるチャンスはあったのに
「目の前の成功」に目が眩んで隠したままにしてしまうのも
今までの主人公達に比べると覚悟が足りないのですが、
同時に「非常に子供らしく、無理をしていない」ということになります。
ゆずき編のテーマは
・目の前にある幸せ
・家族、友人との絆
に絞られており、前2作のように主人公に子供が大人と対等に渡り合う
知恵や勇気は求められません。
学年誌の漫画のテーマが、段々「大きくなる前のお勉強」から
「人の顔色を見て我慢するのをやめよう」という気風に
変わってきた頃だったと記憶しています。
☆女の子3人?の合宿生活と田舎に置いてきた幼馴染み
オーディションに受かったゆずき、アヤカ、ゆりの3人は
女の子3人で同居することによりライバルを意識して切磋琢磨し
スキルアップを効率化するという理由で合宿生活に入ります。
ツンツン系ライバル女子のアヤカは
早々にゆずきの正体を知り、表向きは「運命共同体だから」と言って
ゆずきが周囲に男だとバレないよう協力してくれますが
やはりタチが悪い。本人に悪気が無いので差し引きゼロといったところですが。
アヤカはアヤカで、自分でも気づいていない保身の心から
ゆずきと同じく運命共同体であるはずのゆりには
ゆずきの正体について一言も触れず、ひたすらに隠そうとするために
オーディションの日に一番にゆずきと友達になったはずの
ゆりとゆずきの「友達としての距離」はどんどん離れていくばかり。
少女少年で黒髪(髪ベタ)のライバルのポジションに配置されているキャラは
本人に悪気があってもなくても事態を変化させる役割を担っているため、
子供とはいえアヤカの浅い思考には「女子の嫌な面」を感じずにはいられません。
最初に友達になったはずのゆずきがアヤカとばかり仲良くしているのに
耐えられなくなったゆりは、とうとう家出(?)するほどまでに。
友達同士で共有すべき情報を共有しないことによる
交友関係の悪化の危険性を教えるという意味では、
やはりこれも教育的漫画と言えそうです。
(娯楽漫画ではこういった事態もギャグとして扱われますが
家出したゆりの描写を正面からシリアスに描いているのがポイントです)
そして、ゆずきが忙しくなったことで
常に「置き去り」にしていた幼馴染みのちよ子が
ゆずきの知らない間に病気で入院し、
「運が悪いと死ぬかも知れない」と教えられたとき
彼はとうとう、自分の夢は芸能人では無かったことに気づくのです……。
そして、芸能界を去る決意をします。
☆慌てないで、今を生きる
環境のせいで、自分の夢と願望を取り違える人は多いと思います。
子供ならなおさらでしょう。
ゆずきの「芸能人になって家から離れる」という夢は
夢では無くただの願望で、あと数年耐えて、
大学にでも進学することにすれば「下宿」という独り暮らしも選択できるので
実は慌てて掴む必要の無い夢だったのです。
しかし、運が良いのか悪いのか芸能人になってしまったので、
ゆずきは夢を叶えたはずなのに友達との関係、
幼馴染みとの関係がうまく行かず苦しむ…。
家から離れて羽を伸ばすつもりが「…あれ?」といった状態でしょう。
「こんなはずじゃなかった」という気持ちかも知れません。
少女少年シリーズの中で最も「女装シーン」が少ないのが
ゆずき編だと思います。
ゆずきは元から「兄たちに勝手に女装させられるのが嫌い」な男の子なので
そんなサービスシーンは少なくて当然なのです。
娯楽でありながらテーマを見失わないところが、学年誌漫画の良いところです。
(でも、合宿を乗り切るために兄からの支援で
女の子用下着やちょっと可愛い服を着用するシーンはありますね。
そんな兄たちの支援をありがたがりつつもウザがるのも、
身近な人との絆を意識したゆずき編ならではと言えるでしょう)
- 関連記事
-
- 少女少年5 MINORI (2012/04/17)
- 少女少年4 TUGUMI (2012/04/16)
- 少女少年3 YUZUKI (2012/04/13)
- 少女少年2 KAZUKI (2012/04/12)
- 少女少年 (2012/04/12)